暗い・・・。
自分の周りは真っ暗な闇の世界。
遠くで呼び声が聞こえる・・・。
何度も、何度も。
私を呼ぶのは誰?
お願い、お願いだからもう少しだけ、この夢の中にいさせて・・・。
第十四章 〜ルーゲ:Luge〜
「ルカさん! ルカさん!!」
地面に横たわっている少女の体を揺すりながらリョウは叫んだ。
ついさっきまで、あの美しい舞を踊っていた彼女が、どうしてこんなことに!
少女の体はピクリとも動かない。
氷のように冷たい体にリョウの焦りは増すばかりだ。
「リョウ君!!」
遅れてサクラが彼の元に駆け寄る。
どうやら兵士との決着はついたようだ。
「サクラさん!」
「落ち着いて、リョウ君。場所、僕に代わって。」
今のリョウの様子ではまともな判断は出来ない。
そう思いサクラはリョウに代わり少女の傍による。
彼は経験がないのだろう。
人が敵の攻撃によって傷つき、倒れるところを見るのは。
彼の様子を見れば分かる。
まぁ、そんな経験は無いに越したことはないのだが・・・。
しかしZEROと関わる以上、これからはそうもいかないだろう。
サクラはルカの顔を見て手首に手を置き脈を計る。
大丈夫だ・・・生きている。
サクラはどこかほっとした気持ちになり、リョウに向き直った。
「大丈夫。生きてるよ。」
その言葉にリョウはほっと息をついた。
よかった・・・、本当によかった。
そしてそのままぺたんと地面にへたりこむ。
その様子を見て、サクラは小さく微笑んだ。
「とりあえず、この子の一座の馬車を見つけないとね。えっと、時の一座の馬車は・・」
サクラがルカを担ぎ、リョウは周囲を見渡す。
時の一座の馬車は一番大きな馬車だ。
すぐに見つかると思うが・・・。
その時だ。
「・・・・うっ。」
サクラの背中におぶさっていたルカが小さく呻き声を上げた。
「ルカさん!! 大丈夫ですか!?」
「・・・・ここ・・は、私・・・。」
状況が飲み込めていないルカに対し、リョウは優しく声をかける。
サクラさんの能力の力は強い。
それを生身の体で受けたのだ。
相当のダメージを体で受けているに違いない。
しかし、少女は真っ直ぐに彼の目を見た。
必死に状況を理解しようとしているのだろう。
「とりあえず、今は休んでください。あの・・・一座の馬車に連れて行きたいのですけど・・。」
リョウがそう言うとルカは安心したのかほっと息を吐いて馬車のある方向を指さした。
「る、ルカ!!!」
一座の馬車に着くと団員らしい一人の少女が飛び出してくる。
「ああ、どうしたの!?大丈夫!?いなくなったから本当に心配したんだよ!?
団長なんかまたさっき探しに行って・・・!」
金髪で肩まである髪を下ろしている少女は半ば涙目でルカに詰め寄る。
目が真っ赤だ。
「ごめん・・・心配かけて。私もよく分からなくて・・・。でも、この人達が助けてくれたから・・。」
途切れながらもしっかりした声でルカは言う。
それを聞くと少女はようやく安心したようで涙を指で拭って微笑んだ。
「よかった・・。でも!後でしっかり理由を聞かせてね?
どうしてこうなったのか!団長も心配してるんだから!」
この辺はぬかりない。
どうやら下手に誤魔化しても駄目なようだ。
ルカは自分を気遣ってくれる仲間に感謝した。
「大丈夫ですか?」
馬車の一角で休んでいるルカにリョウはそっと声をかけた。
「はい・・・。どうもありがとうございます。おかげで助かりました。」
そう言って彼女は微笑む。
「公演に・・来てくださってましたよね?」
「は、はい。歌と舞、素敵でした。」
思わず顔が赤くなる。
彼女の歌声と舞はまだ、頭に残っている。
あの心地よい歌声、柔らかな舞・・。
リョウの言葉を聞くと、ルカは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。」
穏やかなその微笑に思わず息を呑む。その様子をサクラはじっと見ていた。